3分解説/決算書で分かるAMDの隠された真実

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米国企業の解説
出典:AMD 公式HP
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はじめに

出典:会社資料より筆者作成

 決算書サマリーでは見えなかった、AMDの隠された真実を解き明かしていきます。

 【会社概要①】アメリカの半導体メーカー、CPU/APU/GPU/チップセットを開発、販売しているロジックの一角で、巨人intelを猛追している。

 【会社概要②】工場を持たないファブレスの会社である。なお、以前は製造部門を持っていたが、2008~2009年に、GlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ)として分社化/独立している。(補足)GlobalFoundriesは3割がAMD、残りはATIC(アブダビ首長国が所有する投資会社)が保有している。ファウンドリー会社としては、tsmc、サムスンに次ぐ第三位である。

 決算書と比較しやすいように、1ドル=100円として記載しています。

成長が止まらない

 過去5年の売上成長率は平均27.8%と順調に伸びている。 圧巻なのは、営業利益率(図のオレンジの線)が2.2%から右肩上がりで22.2%と約10倍となっていることだ。従来intelの牙城を崩そうと、販売費を過剰にかけつつ、製品価格を抑えてコスパの良い製品として販売していたが、認知が広まり販売費を抑制できたことと、高価格製品の販売も好調なのが、営業利益率の増加に繋がっている。 パソコン向けCPUのRyzenとGPUのRadeon、サーバー向けCPUのEPYCが高評価で、後継機も開発中。

図2 会社資料により筆者作成、単位:億円

主力のPC半導体でintelを猛追も、今後は?

 intelのPC関連部門が2Qで▲25.2%だったことから、半導体の供給過剰か?と騒がれていたが、AMDは+24.5%(図3の黄色部分)だったため、単にAMDがintelの市場を奪った形だった。 「Desktop Market Share」では、以前からintelと良い勝負ができていた(変わらず)。 「Laptop Market Share」(下図4)でシェアが上がってきて、直近2Qでは22.4%を占めるまでに成長した(急成長)。 Server Market Share」ではIntelの一人勝ちで、AMDは10%前後をウロウロとしている(低迷)。 今後はどの分野に注力していくかがポイント。

図3 出典:会社資を筆者加工
図4 出典:PASSMARK SOFTWARE HP

(考察)AMDが7ナノCPUをtsmcから調達し、intelが自社で10ナノCPUを量産しているため、価格優位性はなくなっているものの、7ナノ製品が評価されている。このため、以前のようにシェア拡大は大きくは進まないが、成長は続くと想定する。

(考察)AMDはintelに先立ち5ナノ製品を2022秋に投入する予定としている。これが起爆剤となり更なる成長が見込まれる。intelは3ナノ製品の投入を予定しているが、スケジュールが遅れ気味となっている。

2Qは売上70%増だか、営業利益率8%と異変!?真実は?

 売上が前期比70%の増加となっている。一方で22%あった営業利益率が8%まで落ちてしまっている。これは2022年2月に買収が完了したザイリンクス(6週間分取り込み)の影響である。

 (考察)部門再編が行われたため、決算書の単純比較ができないが、「Embedded」(組み込み)部門+αがザイリンクスの売上と考えると、AMD単体でも30%超の成長があったことが分かる。単にザイリンクスの売上が加わったため増加しているのではないことは、かなりポジティブな情報だといえる。

 (考察)問題は、営業利益率である。これは、下の図の「All Other」(1,450億円)が悪さをしている(詳細は図8の下「詳細考察」)。結論から言うと、この費用は一過性であり、真実の営業利益率は30.1%となり、以前より営業利益率が良くなっている。多少割り引いて考えても20%後半の利益率はあるため、驚異的な数値であることは変わりがない。

図5 出典:会社資料を筆者加工

ザイリンクスのM&Aが更なる高みへ

 AMDの2021年の売上構成を見ると、45%がPC関連(Client)となっており、だいぶ偏ったポートフォリオになっていた。 この点、ザイリンクスが加わった2022年の売上構成は、「Embedded」(組み込み)部門が加わったことにより、バランスのよいポートフォリオになっていることが伺える。

 ザイリンクスの過去の決算書を参照すると、売上の46%を占めているのが、AIT(宇宙、防衛、産業)である。その次に19%を占めるのが、車/放送/消費者関連となっている。

(考察)AMDの事業分野がPC、server、データセンターに偏っていたが、ザイリンクスの加入により、組み込みやセミカスタマイズ品を強化できている。相互補完的な役割があり、M&Aのお手本となりうる案件だと思われ、今後の成長がますます楽しみである。

図6 出所:会社資料により筆者作成
図7 出所:ザイリンクス社の資料により筆者作成

在庫率の低さもintelを凌いでいる

図8 出所:会社資料を筆者加工

 在庫率の低さが目立っている。6か月前の在庫率は11.8%であったのに対し、2022/2Q時点では10.1%と改善している。これは、intelが同時期に13.7%から20.9%へと悪化させたのとは対照的である。

 (詳細考察)営業利益率を悪化させている「All Other」(1,450億円)の大部分1,000億円は無形固定資産の償却である。無形固定資産として、Goodwill (のれん)2兆4,193億円とAcquisition-related intangibles(買収関連無形資産)2兆6,159 億円が計上されている。のれんは継続した償却はなく、減損(価値がないと判断した時に損失とする)処理を一時的に行っている。ただし、IFRSの改訂(2022秋検討予定)により、のれんが継続償却になる可能性もある。このため、総額や純利益ベースだけで見ている層は、利益率が鈍化したと騒ぐと思われるため、下がったところで、粛々とエントリーすると良い結果が生まれると考える。

おまけ

 (考察)半導体製造では、関連会社としてGlobalFoundriesがあるものの、関連会社に忖度せずに、7ナノに関してはtsmcにも生産委託している。ザイリンクス関連のサービスに関してもtsmcへの生産委託枠を開放するとしているため、価格競争力を活かせると想定している。

 (考察)tsmcへの生産委託で価格競争力を保ってきたが、tsmcもライン拡充等で固定費が上昇したことを受けて、卸価格を上昇させてきている。そのため、この影響がどの程度出るのかは今後注視していきたい。 PC関連では、intelの3ナノ製品(今後投入予定)、appleのM2チップ(現状はapple製品のみなので厳密な競合ではない)との競合が想定される。どの程度のシェアを維持できるのか、成長できるのかは、継続してウォッチしていく。

 gaming部門では、PSとXbox向けの半導体を提供している。PSでいうと、TSMC→AMD→SONYの商流となるため、SONYやマイクロソフトの出荷情報も追いかけると、その兆候がつかめると思われる。     1ナノメートル(nm)は10億分の1メートル、目に見えない戦いが繰り広げられている。ナノの下はピコという。ピコはなんだか可愛らしい。

おわりに

(まとめ)成長率、営業利益率、ポートフォリオが完璧である。 M&A関連の無形固定資産の償却で利益率が悪化しているように見えるのがこれを読み解けば、AMDの強さが分かってくる。

 最後まで、お読みいただきありがとうございます! この点をもう少し詳しく解説して欲しい、解説して欲しい他の会社などありましたら、お気軽コメントください。お待ちしています。個別銘柄の記載がございますが、投資は自己責任でお願いいたします。

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