はじめに
・決算書サマリーでは見えなかった、
クアルコムの隠された真実を解き明かしていきます。
【ここに注目】
①データセンターのサーバー向け半導体開発計画の再開
②利益率70%のセグメントとは
・決算書と比較しやすいように、1ドル=100円として記載しています。
どんな会社?
【社歴など】 1985年:設立(社名はQualityとCommunicationsを合体させた造語) 2015年:Bluetoothの高音質化「aptX」のCSR社の買収 2016年:自動車半導体強化のため、NXPセミコンダクターズを買収しようとするが頓挫 2021年:半導体スタートアップのヌビアを買収。
【売上ポートフォリオ】 主にQCTと呼ぶ半導体事業と、QTLと呼ぶライセンス収入事業がある。QLT半導体事業はファブレスで設計・開発・販売のみ行っており、製造はtsmcやグローバルファウンドリーズなどに委託している。
営業利益率の高さはここにあり
2018年に営業利益率が大幅に落ちた後、2019年に回復し、2022年現在でも高い営業利益率をキープしている。半導体不足で高く売れていることもあるが、クアルコムに関しては、さらに営業利益率を押し上げている要因がある。
それが、QTL(ライセンス収入)事業である。無線通信技術の特許を強みに、60%以上の営業利益率を出している。(注)図にある「EBT」とは、税引前当期純利益のことである。会社のセグメント情報では、営業利益の記載がないため、ここではEBT(税引前利益当期純利益)で記載と計算を行っているが、税引前利益率60%超というのは、ドル箱事業である。
2018年~2019年にかけて、権利収入と利益率が落ちている。これは、appleがクアルコムに対して、特許使用料を過大に請求していると訴訟を起こしたことが原因である。確かにこれだけ、莫大な利益と破壊的な利益率を見てしまうと過大に請求していると疑われても仕方がないとも思える。なお、訴訟に関しては、特許使用許可と半導体供給の長期契約を締結するという条件で和解し、appleが訴訟を取り下げている。
2022/3Q現在では、QTL(ライセンス収入)事業は、全社売上の14%を占め、1,080億円(3か月分)の税引前当期純利益と、利益率71%となっており、強さを取り戻している。
QCT半導体事業の内訳
全社の86%がQCT半導体事業で、そのうちの66%が携帯向け半導体となっており、だいぶ偏った製品ポートフォリオになっている。2016年には、自動車半導体大手のNXPセミコンダクターズの買収を計画したが失敗に終わったため、携帯向け半導体に偏ったままとなっている。会社としてはポートフォリオの改善を検討しているが、現状としてはあまり進んでいない。
スマートフォン向け半導体技術を自動運転やコネクトカーやIoTへ展開させているため、今後の成長に期待が持てる。
少しづつではあるが、IoT(図のオレンジ)が伸びてきていることが目に見える(四半期ベースのグラフなので、年ベースに置き換えるとかなり急成長している)。IoTは2021/3Qが1,399億円、2022/3Qが1,833億円と31%も成長している。
スマートフォンや無線で全てが繋がる世界が迫ってきているため、クアルコムの成長は止まらなず、IoTをもう一つの柱にできる可能性は大きい。事業のポートフォリオが改善される日が待ち遠しい。
携帯向け半導体の展望/メディアックを圧倒
IDCのWorldwide Smartphone Forecastによると、2022年のスマートフォン市場は、2021年からは多少鈍化し、3.5%減の13億1000万台になるという。しかし、これは短期的な動きで、2023年から2026年は緩やかに回復し、年間成長率2%はキープするとされている。2022年に関しては、半導体の供給が追い付いていなかったことが原因とされているので、需要は大きく、クアルコムにはポジティブな内容である。
2022年の5Gの半導体シェアは、スマートフォンの新規出荷台数のうち53%であるが、2026年には5Gの半導体シェアが78%以上になると想定されている。意外なことであるが、日本や中国は5Gへの移行が早かったが、欧米は5Gへの移行が遅れている。5Gへの移行が遅かったことは、クアルコムに関しては言えば需要の取りこぼしを少なくすることができるため、良いことである。
少し前に、メディアックスマートフォン向け半導体シェアを増加させ、クアルコムの時代は終わったと囁かれた。この点、詳細を検討すると考えを改める必要がありそうだ。COUNTER POINTのレポートによると、下記の傾向がある。 ◇価格の低い半導体:クアルコム6% VS メディアック47% ◇価格が中間の半導体:クアルコム71% VS メディアック25% ◇価格が高い半導体:クアルコム73% VS メディアック0%
上記から分かることは、確かに台数ではメディアック僅差であるが、価格が中間から高い半導体の高付加価値製品のシェアは圧倒的にクアルコムが強いことだ。利益を残して、最後にリングに立っていることができるのは、クアルコムの方と考えるのが自然だ。
不安要素としては、クアルコムはappleにも半導体を提供しているが、早ければ2023年にはappleのiPhoneの半導体はappleが内製するとされている。スマートフォン全体の14%程度がiPhoneということなので、この影響は小さくないと思われるが、他の事業でどこまでカバーできるかがポイントだ。
サーバー向け半導体の再開
クアルコムがデータセンターのサーバー向けの半導体開発を再開するとのニュースが入ってきた。クアルコムと言えば、2018年に当該半導体開発から撤退していたので、再開するとは驚きだ。
サーバー向けの半導体はinelがほぼ独占しており、AMDも検討しているがシェアは10%程度に留まっている。ただし、世界のデータセンター拡大は止まらず、収益性の高いデータセンター向け半導体を販売することはクアルコムの悲願であると言える。
クアルコムのこの計画の再開は、2021年に1400億円で買収したNUVIA(ヌビア)が関係している。ヌビアはappleで設計のシニアディレクターも務めたジェラルド・ウィリアムズ氏によって設立され、データセンター向けの高効率な半導体の開発を行っている。このヌビアの製品をAmazonのAWSへ提案している(Amazonはコメントを控えている)。
携帯向け半導体一本のクアルコムであるが、サーバー向け半導体事業を拡大できれば、事業ポートフォリオが安定するため、今後の展開が楽しみである。
おまけ
借入金の額が、1兆5,045億円と巨額なので、気にする方もいらっしゃるだろう。特に最近金利が上昇してきており、今回起債している債権の利率は固定金利で4.25%・4.50%と上昇傾向である。
まず、流動資産で1兆8,999億円あるため、資産に対する負債としては、そこまで神経質になる必要はないと言える。 営業キャッシュ・フローも7,650億円/9か月と、本業で資金を確実に得ているため心配ないだろう。
利率であるが、税引前利益率が30-40%となっている状態では、4~5%の利率で調達でき、先行投資するのは理に適っていると思われる(本業の利益率より借入金の利益率が高い場合は危険)。
おわりに
最後まで、お読みいただきありがとうございます! ・この点をもう少し詳しく解説して欲しい、解説して欲しい他の会社などありましたら、Twitter(@kimamafire)やブログでお気軽コメントください。お待ちしています。
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