はじめに
・ベア局面でも強いディフェンシブ銘柄代表のヘルスケアの中で 新薬が注目されているイーライリリーについて検討してみたいと思います。 【ここに注目】 ①新薬開発能力の高さ、研究開発重視の姿勢 ②新薬開発の進捗 ③武田薬品工業(売上は同程度)との比較 ・決算書と比較しやすいように、1ドル=100円として記載しています。
どんな会社?
製薬業界で世界大手である。1876年に退役軍人であるイーライ・リリー大佐(化学者)により創業された会社で、世界で初めてポリオワクチン、インスリンの大量⽣産を可能にした歴史ある会社。なお、医薬品はドラッグストア等で購入できる「一般用医薬品」と病院で処方される「医療用医薬品」に区分できるが、イーライリリーは「医療用医薬品」に特化している。
イーライリリーは、7カ国に研究開発施設(日本は神戸)、7カ国に製造工場を構え、55カ国以上で臨床研究を実施している。世界に36,000人以上の従業員がおり、そのうち研究開発に関与する従業員は約8,600人となっており、研究開発を重視している。そのため、フェーズ3以上の開発薬が多くあり、製薬メーカーの中でも今後の成長が期待できる銘柄となっている。
2022年の売上の53%を占める糖尿病治療薬(主に「トルリシティ」)を始めとして、21%を占めるがん治療薬(主に「ベージニオ」「アリムタ」)、12%を占める免疫治療薬(主に「「トルツ」)など幅広く治療薬の開発及び販売を展開している。新型コロナの抗体薬も開発・製造しており、世界の再発進に大きく寄与している。
新薬の開発(パイプラインの充実)
イーライリリーは、現状の開発薬ラインナップに甘んじることなく、研究開発を継続している。下の図をご覧いただければ、その凄さが分かると思う。特に、フェーズ3(多数の患者を対象とした有効性と安全性の既存薬などとの比較)以降の開発薬が、28種類(うち4件を申請中、2件が認可)もある。【★VS武田】日本の武田薬品工業のフェーズ3は7種類(うち1件を申請中)であり、バイオベンチャーでいうとフェーズ3が1種類でもあれば上場できるほどであるが、イーライリリーにおいては、それが28種類もあるのは驚きだ。
もちろん、新薬の開発は失敗することもあるので、数が多ければ良いというわけでないが、フェーズ1、2の開発薬も多く、しばらく成長を期待できると想定する。特に、フェーズ3の肥満治療薬の「チルゼパチド(商品名:マンジャロ)」は臨床試験で21%の体重減少したとの結果を発表し、肥満治療おける史上最大の薬になりうると言われている(フェーズ3の右上にあり、緑のタグが付いているため開発目標を達成している)。なお、2022/2Qの決算書には販売されたばかりのチルゼパチドは「Other diabetes」に含まれていてどの程度売上られているか分からないが、2022/2QのEarning callにはボリュームがないにもかかわらず、既に項目建てされているため、その期待の高さが分かる。
他の注目の新薬は、ドナネマブ(アルツハイマー型認知症治療薬)がある。アルツハイマー型認知症に対しては、従来対処法が一般的で根本的な治療が難しいとされている。ここでは詳細は省くが、脳内に蓄積したアミロイドβを取り除くことができれば認知症を根治できるとの仮説がある。エーザイとバイオジェンの薬が先行しているが、個人的には認知症の進行を抑える程度との認識である。イーライリリーのドナネマブの効果は計り知れないが、認知症の治療を根本から覆す可能性があり、期待されるところだ。
【新薬の開発スケジュールなどについては、↓も参考にどうぞ】
研究開発の促進
一般的に新薬開発の期間は10年、成功確率は1/10,000、開発コスト1,000億円と言われている。イーライリリーの新薬開発にかかる平均コストは2,600億円、新薬の発見から患者さんに投与されるまでの平均期間10年と公表されている。開発費用、成功確率、投与までの期間を考えると、イーライリリーの凄さが分かるだろう。
イーライリリーが研究開発を重視していることは前述しているが、決算書の数値でも確認してみると、継続して年間5,000億円以上を研究開発費に使っている。また、売上に占める研究開発費の割合も常に20%以上を投じていることが分かる。【★VS武田】この点、武田薬品の研究開発費割合は14%程度となっている。
売上成長率、利益率
売上については、2017年に前年比▲6%となっているが、2018年以降は順調に成長している。売上成長率はバラツキがあるが、直近5年間で6%成長となっている。
【★VS武田】武田薬品と直近の売上成長率を比較すると、武田薬品が11%(2021/12)であったのに対し、イーライリリーは15%となっている。売上は武田薬品が3兆5,690億円に対し、イーライリリーは3兆2,566億円(115円換算)であり、若干武田薬品の方が大きいと言える。また、売上総利益率は武田薬品は68%程度であるが、イーライリリーは73%以上をキープしている。
利益率が高いのは、販売地域の差が出ていると思われる。イーライリリーの販売地域は63%がアメリカとなっている。アメリカでは医薬品の高騰が社会問題となっているように、薬価が高いままで維持されていることが、イーライリリーの利益率の高さを支えている。
直近の2022/2Q売上は前年同期⽐4%減となっている。これは、特許切れとなったがん治療薬の「アリムタ」(前年比63%減)の影響が大きい。アリムタとコロナ治療薬を除いた売上で考えると前年比6%増となっているが、この2つの影響が今後どのように決算書に反映されるかは注視する必要がある。
株価推移
コロナ治療薬を開発及び販売していたことも一因であるが、コロナショックの影響をほとんど受けずに株価は堅調に推移している。直近5年間のPERの平均は30.8倍であるが、2022年9月時点で45倍~50倍となっているため、過去推移を若干アウトパフォームしている状態である。新薬のチルゼパチド(糖尿病治療薬)とドナネマブ(アルツハイマー型認知症治療薬)の期待が相当程度織り込まれていると想定する。
【★VS武田】武田薬品とイーライリリーの売上額は、ほぼ同程度であるが、武田薬品のPERは19倍、時価総額は5兆9千億円に対して、イーライリリーはPER50倍、時価総額は29兆5千億円となっている。株価は現在地より将来期待を織り込むものであるが、イーライリリーは武田薬品と比較してかなり評価されていると言える。
今後の投資戦略としては、少し様子見と考えている。確かに、パイプラインは素晴らしく、今後の新薬にも期待を持てるものが多く、薬の特許切れ効果もうまくこなしている。ただし、コロナショックの以前はPERが30倍程度で推移していたこと、コロナ治療薬の売上減の影響がどの程度でるか測れないため、一旦見送ってPERが落ち着いてからエントリーしようと思う(2022年末のコンセンサスPERでも45倍)。
おわりに
・最後まで、お読みいただきありがとうございます! ・お好みの個別銘柄と出会えたら幸いです。 ・個別銘柄の記載がございますが、投資は自己責任でお願いいたします。
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