はじめに
- ベア局面でも強いヘルスケアの中でも、がん治療薬に強みを持つメルクについて検討してみたいと思います。
【ここに注目】
- 主力治療薬のキイトルーダの将来性
- 驚異的な収益力
- 今後の戦略について
※決算書と比較しやすいように、1ドル=100円として記載しています。
どんな会社?
メルクは、研究集約型バイオ医薬品企業であり、医薬品事業(売上シェア90%)とアニマルヘルス事業(売上シェア10%)の2つのセグメントから構成されている。医薬品事業は、ヒト用医薬品とワクチンを扱い、基本的には医療用医薬品として販売されている。代表的な治療薬としては、抗がん剤の「キイトルーダ(KEYTRUDA)」、HPV(子宮頸がん)ワクチンの「ガーダシル(GARDASIL)」、筋弛緩回復薬の「ブリディオン(BRIDION)」、糖尿病治療薬の「ジャヌビア(Januvia)」がある。また、COVID-19の経口抗ウイルス剤「ラゲブリオ(Lagevrio)」も2022年から大きな売上となっている。
なお、2021年6月にウィメンズヘルス事業、バイオシミラー(ジェネリック)事業、エスタブリッシュトブランド事業を新会社オルガノン(OGN)としてスピンオフさせている。
スピンオフの際に、なぜアニマルヘルス事業も切り離さなかったのか。そこには、メルクの「One Health」という考えが根底にあるものと思われる。狂犬病、豚インフルエンザ、エボラ出血熱などの「動物」や昆虫とヒトの間で伝染する病気がヒトを危険にさらすこと、また、畜産「動物」の病気が世界の食料安全を通じてヒトを危険にさらすこととなる。そのため、ヒトの健康を守るために、ヒト、動物、環境間健康問題を予防、検出、対応するためにのアプローチである「One Health」をメルクは重視している。このため、アニマルヘルス事業はメルク本体に残されたと考える。
驚異的な営業利益率
直近のメルクは営業利益率が改善している。特に、2021年が26%、2022年1Q、2Qが27%と同業他社と比較しても高い水準となっている。この営業利益率を支えている一つの要因は、ネットワークの構築にあると思われる。メルクは社内の研究能力を補完するために、買収や、共同研究およびライセンス契約などの外部提携を強化している。主力治療薬のキイトルーダが売上に占める割合が大きいことから、その比率を下げようとしていることが伺える。
この提携で得られるライセンス収入も営業利益率の向上に寄与している。代表例としては、リッジバックバイオセラピューティクス(「Ridgeback Biotherapeutics」、1,177億円)、アストラゼネカ(299億円)、エーザイ(231億円)、バイエル(167億円)、ブリストル・マイヤーズ(33億円)がある。※カッコ内の数値は2022/2Qの3か月分。
Ridgeback Biotherapeuticsは、非公開のバイオテクノロジー企業であり、メルクはCOVID-19患者の治療を目的として臨床開発中の経口抗ウイルス剤候補であるラゲブリオ(Lagevrio)の共同研究契約を、Ridgebackと締結した。メルクは、Ridgebackに契約一時金を支払い、販売権を取得しているため、上記の金額はライセンス収入ではなく、売上の金額である(売上原価が損益計算書に計上されている)。なお、当該売上は2022/1Qが3,247億円、2022/2Qが1,177億円となっている。
ラゲブリオ(Lagevrio)はCOVID-19関連のため、一時的な売上である可能性はあるが、共同研究や提携に関連する上記の各社の合計が、売上の13%を占め、小さくない数値である。もちろん、このライセンス収入等を得るためには、戦略眼と新薬に関する目利きが必要となるので、誰にでもできるものではない。
メルクの主力治療薬「キイトルーダ」について
抗がん剤の「キイトルーダ(KEYTRUDA)は、2021年の治療薬の販売ランキングで第3位であり、世界販売額は1兆7,186億円にもなる。これは、メルクの2021年の35.2%を占めるものである。2022年2Qにおいても、そのシェアに変動はなく35.9%を占めている。一つの治療薬にここまで依存して良いのかというのが、一部の投資家からは疑念の声が上がっている。
キイトルーダとは?
そもそも、キイトルーダとは何だったのか?2014年に小野薬品工業株式会社で開発されたガンの治療薬の「オプジーボ」は聞いたことがあるのではないか。このオプジーボの競合治療薬がキイトルーダになる。どちらも、点滴治療で手術や放射線治療をする必要がない。また、これまでの抗がん剤のようにガンの増殖を抑える治療薬とは異なり、ガン細胞を消そうとするものの働きを強めてくれるタイプの治療薬とされている。ガンを根本から治療できるということで、夢の治療薬と騒がれたが、その治療費も1,000万円を超えるなどとも話題になった。
がん細胞と免疫機能の関係を簡単に記載する。T細胞(リンパ球と呼ばれる細胞の一種)が、体内の免疫機能をコントロールしているのだが、ガン細胞は、このT細胞の動きにブレーキをかける働き(図のPD-1とPD-L1が結合)をしていたため、厄介な病気とされていた。
このブレーキがかかっている状態を外してあげるのが、下の図の「免疫チェックポイント阻害薬(2018年ノーベル医学生理学賞、本庶佑先生)」であり、オプジーボやキイトルーダがこれに当たる。すなわち、ガン細胞が免疫機能にブレーキをかけている状態に、薬によりブレーキを外し、再度ガン細胞を攻撃するようにT細胞を活性化させ、がんを治療することできると考えられている。このため、夢の薬と言われている。
キイトルーダの今後
キイトルーダはしばらく、メルクの主力治療薬であることは変わらないと想定する。直近のキイトルーダの売上額であるが、2019年が1兆1,084億円、2020年が 1兆4,380億円、2021年が1兆7,186億円と年々増加している。そして2022年半期分で1兆61億円(2022年は2兆円を超える推移)と、その売上成長に衰えを見せていない。承認当初は、オプジーボと比較して対象部位が少ないとの指摘もあったが、適用範囲は拡大中である。
特許切れの期限が気になるところであるが、キイトルーダは欧州で2028年に特許が切れるが、近々に迫っている状況ではないので、しばらくは問題ないだろう。ただし、各社バイオシミラーの開発を開始している点には留意が必要であろう。
次のページでは、パイプラインの状況、今後の戦略(買収、提携)、株価について検討しています。
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