はじめに
・インフレ抑制法案で一番恩恵を受けるクリーンエネルギー関連銘柄の 筆頭であるプラグパワーについて検討してみたいと思います。 【ここに注目】 ①営業赤字が継続しているが、今後脱却できるか ②株価は一度天井を付けてから戻してきているが割安か ・決算書と比較しやすいように、1ドル=100円として記載しています。
どんな会社?
水素を軸とした燃料電池システムの設計、開発、製造、販売を⾏っている会社。決算書ではセグメントが区分されていないが、会社のホームページによると「ProGen」と「GenDrive」の事業を行っている。
「ProGen」は主に、物流事業者の配送⾞(軽量、中型、大型の電気自動車)の燃料電池システムを供給している。(※画像は公式HPより)
「GenDrive」は主に、倉庫業等にフォークリフト等のマテリアルハンドリング(通称マテハン)に対する燃料電池システムを提供している。なお、北米全域に水素ハイウェイを建設・運営する液体水素の最大のバイヤーとなっている。(※画像は公式HPより)
販売先は企業や公営企業等のBtoB向けが主である。顧客は、Amazon、ウォルマートを始めとして、フェデックス、ボーイング、ホームデポ、BMWなどがある。なお、プラグパワーのホームページに「Customers(顧客)」が掲載されているが、代表的な会社は15社程度であり、顧客の開拓が今後の課題となるだろう。
水素社会のリーディングカンパニーになるべく、2020年には水素液化技術や液体水素の輸送技術を持つ「United Hydrogen Group」、電気分解を用いた水素発生装置の「Giner ELX」、2021年にはオランダの水素生産会社「Frames Group」を買収している。
事業ポートフォリオを見ると、8割弱が燃料電池システムの販売となっており、その他の3つは燃料電池システムの販売に付随する事業と考えても良いだろう。売上については、2018年から急成長しており、2018年の174億円から、2021年の502億円と2.8倍となっている。
なぜ注目されているか?
EUは2021年7月、新車が排出するCO2の量を2035年までに100%削減すると発表した。つまり、ガソリン車やディーゼル車などの販売が実質禁止になることを意味している。EUは水素戦略として、2030年までに再生可能な水素の生産量を1000万tにすることを目標にしている。また日本も2035年に乗用車の新車販売を電動車100%にするという目標を発表している。これらの動きから、2050年には1000兆円規模の水素経済が到来すると言われている。
水素エネルギーについて、少し補足しておくと、水素はその製造方法によって「グレー水素」、「ブルー水素」、「グリーン水素」がある。「グレー水素」は、化石燃料を燃焼させたガスを変化させたものである。「ブルー水素」はグレー水素製造工程で排出されたCO2を回収/貯蔵/利用することでCO2排出を抑えたものである。「グリーン水素」は、再生可能エネルギーを利用して水を電気分解することで製造し、製造過程でCO2を発生させないものである。CO2の排出具合は「グレー水素」>「ブルー水素」>「グリーン水素」となっている。
プラグパワーが注目されているいるのは、製造過程でCO2を発生させない「グリーン水素」を産みだすことができる燃料電池システムを製造/販売していることにある。SDGsと相まってカーボンニュートラルの世界が求められる中では重要な役割を担う存在である。
さらに、プラグパワーの業績を押し上げる要因として、先日成立したインフレ抑制法案(IRA)の存在がある。「クリーン電力」に対する税控除として、①再エネ等への生産税控除及び投資税控除の延長と対象拡大(2024年末までに建設開始したものに10年間で6兆5100億円)②CCS(CO2を回収/貯留/利用)への税控除の延長(2032年末までに建設開始したものに10年間で3200億円)が行われたことがある。
特に注目したいのが、①には、温室効果ガスを排出しない方法で生産された水素1キログラム当たり最大3ドル相当の水素をクリーンに生産するための税額控除が含まれていることである。グリーン水素の製造単価が現状1キログラム当たり3ドルから7ドルと言われている中で、このような税控除があるのは10年間の限定だったとしても、水素の燃料電池システムを導入することの後押しになることは間違いないだろう。
現状の決算の状況を確認してみよう
まず、上述の通り売上は成長している。2022年の売上成長率は前年比54%となっている。北⽶での水素生産の目標は、2022年末に1⽇当たり70トン、2025年に同500トン、2028年に同1,000トンを計画しており、継続的な成長が見込まれている。
ただし、現在確認できる決算書で2011年まで遡れるが、10年以上営業赤字となっている。この点、2022年も営業赤字となっている。
次に、売上総利益(売上ー売上原価)の推移を確認すると、2018年▲26億円、2019年11億円、2020年▲70憶円、2021年▲171億円となっている。これは非常にまずい状況である。適正価格で販売できれば、売上総利益で赤字となることはないのであるが、それでは売れないということであるか、もしくは、生産量が少ないため製造の固定費(減価償却費)を回収できていないということである。
減価償却費(amortization)の規模を確認してみると、2022年2Qで15億円程度であり、売上の292億円と比較するとそこまで大きい金額ではないため、販売価格の問題であると推測できる。
合わせて、営業キャッシュ・フローを確認してみると、こちらも継続して赤字であり、2018年▲57億円、2019年▲53億円、2020年▲155億円、2021年▲358億円となっており、直近の2022年2Qも▲405億円(6か月間分)となっている。
プラグパワーは販売すればするほど、赤字を積み上げている会社となっている。これだけ赤字を垂れ流していると倒産しないかという心配もあるが、2020年に行った大型増資(3,587億円)のおかげで、現状は心配しなくても良い状態である。具体的には、2022年2Qの流動資産が3,894億円で、負債総額は1,395億円(流動427+固定968)となっている。ただし、同じペースで売上の増加と赤字幅を継続する場合、6年程度で破綻することとなる。
株価の推移
2020年の6月頃から盛り上がって、現状は高値から60%程度下落している状態である。クリーンエネルギーの隆盛に寄っているところが大きい。
現状の1株30ドル付近と比較して株価が適正か検討してみる。2022年の年間の決算書は2023年1月以降の公表であるため、ある程度推定計算してみる。2022年の売上が50%成長して、10%の利益が出たと仮定して計算すると、PERは200倍を超えている状態である。現状は営業赤字のため、10%の利益が出すのは、かなり難しいと思われる。投資するタイミングとしては、インフレ抑制法案の影響が見えてきて、ある程度、売上総利益と営業利益が黒字方向へ動いてからでも遅くはないと思われる。
こういうテーマ株は、赤字でも株価が吊り上げられていく可能性はあるが、慎重に行くのであれば、現状で投資するという判断にはならないと思われる。2022年3Q(9月)は、インフレ抑制法案の影響がほとんど加味されていないため、2022年4Qの年度決算で、3Qからの立ち上がりを確認したい。
なお、私の投資スタンスとしては、営業利益が赤字、営業キャッシュ・フローが赤字の会社へは投資しない。少なくとも、黒字化が見えた段階で検討したい。
おわりに
・最後まで、お読みいただきありがとうございます! クリーンエネルギー関連では、テスラ、エンフェーズ・エナジーも分析しているので、 合わせてご覧ください。 ・この点をもう少し詳しく解説して欲しい、解説して欲しい他の会社などありましたら、 お気軽コメントください。お待ちしています。 ・シリーズ化してお届けしていますので、シェア、コメントなどで反応してもらえたら、 更新の励みになります。 ・個別銘柄の記載がございますが、投資は自己責任でお願いいたします。
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