はじめに
・ベア局面でも強いヘルスケアの中でも継続的な成長を続ける アボットラボラトリーズについて検討してみたいと思います。 【ここに注目】 ①常に変化を求める企業(ビジネスモデルの作り方) ②COVID-19検査関連売上が剝落した場合の影響 ③配当の継続について ・決算書と比較しやすいように、1ドル=100円として記載しています。
どんな会社?
患者と医師により効果的な治療法を提供することを目標に、医師でドラッグストアの経営者であるアボット博士により1888年に設立された、時価総額17兆円の巨大医療機器及び医療用品メーカーである。事業セグメントは4つあり、①医薬品、②栄養補助製品、③診断薬、④医療機器となっている。各セグメントにおいて、若干補足説明が必要なので、セグメントの内容とその強みを見ていきたい。
医薬品セグメント(売上シェア11%)
医薬品セグメントは、新興国のジェネリック医薬品に特化している。特にインドの子会社はインドで最大の製薬企業となっている。
まず、ジェネリック医薬品の対局となる新薬開発に関する事業もあったが、研究開発型医薬品については2013年に分社し、別会社のアッビィ(ABBV)となっている。
次に、ジェネリック医薬品については、新興国のみならず、先進国にも販売していたが、先進国向けのジェネリック部門は2014年にMylan(マイラン)社へ売却している。
新薬の開発は、ギャンブル性が高いこと、先進国へのジェネリック医薬品は競争が激化しているため、安定して収入が確保できそうな新興国向けのジェネリック医薬品販売に特化しているのが、アボットラボラトリーズの特徴である。今までどれだけ稼げていた部門であっても切り離し、より稼げそうな事業へピボットできるのは、最後まで生き残る会社の特徴だ。
栄養補助製品セグメント(売上シェア19%)
栄養補助製品は、小児向けと大人向けの製品が半々程度である。
ベビーフードや粉ミルクなどの小児向け栄養補助製品は寡占が加速している。小児向けの栄養補助製品はTOP4のネスレ(スイス:18.6%)、ダノン(フランス:10.6%)、アボットラボラトリーズ(5.6%)、レキット・ベンキーザー(英:4.7%)の4社で、世界市場の約4割を占めている。人口の増加と新興国の所得が増加するに従い、小児の口に入れるモノの品質に拘るようになるため、この寡占状態はさらに加速すると想定される。
大人向けの製品には、カロリーメイトのようなバー・液体・粉末もあるが、固形物が飲み込めない高齢者向けのチューブを利用した経管栄養製品もある。高齢化が進む中では、このような製品の需要も、さらに増加することが見込まれている。
このセグメントの特に面白い動きとしては、バイオコンの子会社シンジーン(インド有数の受託研究機関)と共同で、インド初の栄養研究開発(R&D)センターを設立したことだ。このR&Dセンターは、手頃な価格の栄養製品の開発を行い、インドにおけるアボットの栄養製品販売を促進することにある。人口が増加しているインドにおいて、医薬品と合わせて企業ブランドの浸透を図っていることが分かる。
診断薬セグメント(売上シェア36%)
診断薬というと、ピンとこないかもしれないが、COVID-19のポータブル抗原検査キットの「PanbioTM COVID-19 Antigen ラピッド テスト」はどこかで記事で目にしたことがあるだろう。このセグメントのうちCOVID-19関連が含まれる「Rapid Diagnostics(迅速診断)」が、コロナ以降のアボットラボラトリーズの業績を牽引していると言っても過言ではない。
診断薬セグメントは、全世界に展開しており、米国とそれ以外の地域の販売は半分程度である。2016年にポイントオブケア検査の大手のアレアを5,500億円で買収し、感染症、分子、心臓代謝、毒物検査の最も幅広いポイントオブケアメニューを提供できるようになっている。
医療機器セグメント(売上シェア34%)
医療機器については、心臓血管関連と糖尿病関連が代表的である。
まず、心臓血管関連の医療機器おいて、アボットラボラトリーズは心臓の血管である冠動脈を広げる金属ステントで世界トップシェアを取っていた。ただし、ステント以外の製品では出遅れていた。そこで、アボットラボラトリーズは、米医療機器メーカーのセント・ジュード・メディカルを2兆5,000億円で買収した。セント・ジュード・メディカルはステントは弱かったが、ペースメーカーや血管を広げて血流を助けるカテーテル器具など多種の心臓血管関連の医療機器を有していた。この買収により、心臓血管関連の医療機器シリーズを取り揃えて提供することができるようになった。買収のお手本のような事例である。
次に、糖尿病関連の医療機器であるが、「FreeStyle Libre」が糖尿病界隈を賑わせている。この機器は、センサーとアプリが組み合わさりBluetoothで接続される機器であり、とても小さい(約2.5 mm x 2.5 mmの面積)のが特徴である。この機器は、CGM(継続的なグルコースモニタリング)を行うことができる。2022年6月に米食品医薬品局(FDA)の認可を得た、「FreeStyle Libre3」は世界最小・最薄・最高精度の14日間連続で測定できるグルコースセンサーである。
多くの糖尿病患者が利用している血糖自己測定(SMBG)は、自分で指先などに針で刺して、ごく少量の血液を採決して血糖値を測定する。現在の血糖自己測定器は、手のひらサイズで小さく、さらに、針はとても細く、痛みもかなり少ない。ただし、血糖自己測定器で分かるのは1日数回の測定時の血糖値のみ、かつ、測定のたびに指先など刺すため、測定回数が増えると患者の負担は大きくなっていた。
この負担を解決したのが、持続血糖モニター(CGM)であり、皮下に刺した細いセンサー(腕にちょっとしたシールが貼ってあるくらいの見た目)により皮下の間グルコース(糖分)を連続して測定し、血糖値を推定することとなる。
「FreeStyle Libre」は画期的な製品であるが、画期的な製品が故に高額で、実際に使用できるのは富裕層に限定されているとの指摘もある。販売数が増え、一般的に誰でもアクセスできるようになるとより良いのだろう。
次のページからは、アボットラボラトリーズの将来性、配当、株価について検証していきます。
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