M&A戦略と今後の展開
サーモ・フィッシャーにおいては、M&A戦略がとても重要視されている。特に会社のHPで項目建てられていること、アニュアルレポートでもトピックスとして取り上げていることからも分かる。
サーモ・フィッシャーは、2006年にサーモエレクトロンとフィッシャーサイエンティフィックが合併して設立されたである。2018年以降のM&Aについては後ほど記載するが、2018年より前のM&Aについては特徴的な2社について説明しておく。
まず、2013年に136億ドルでライフテクノロジーズ・コーポレーションを買収したことにより、DNAシーケンシング(アデニン (A)、 グアニン (G)、 シトシン (C) 、 チミン (T)の4つの塩基の正確な配列を解明すること)と遺伝子検査サービスが加速することとなる。
次に、2017年に約72億ドルでパセオンを買収したことにより、医薬品開発、製造(製薬企業からのアウトソーシングを受ける医薬品受託製造(CDMO))サービスを加速させることとなった。なお「Patheon」は現在サーモフィッシャーにある6つのブランド名のうちの1つとなっている。
2018年以降のM&Aは下の図の通りである。ご覧頂ければ分かるのだが、①ライフサイエンスソリューションと④ラボ製品セグメントの買収はあるが、②分析機器と③特殊診断セグメントにおいては、買収などが実行されていないことが特徴であろう。これには、サーモ・フィッシャーの将来性と今後の戦略が隠されていると想定する。
買収した会社等の内容について
前のM&A図の買収した会社等の概要を記載しておく、詳細に興味がない方は黄色のキーワードだけ拾ってもらえればと思う。
「1.Advanced Bioprocessing business(477億円)」は、ベクトン、ディッキンソン・アンド・カンパニー社のアドバンストバイオプロセシング事業であり、主に、細胞培養培地製品をと技術サービスプログラムを提供する。
「2.Brammer Bio(1,700億円)」は、遺伝子および細胞療法用ウイルスベクター製造し、ウイルスベクターの受託開発および製造組織(CDMO)をリードする企業である。
「3.API Manufacturing Facility(90億円)」は、グラクソ・スミスクラインのアイルランドのコークにある製造拠点で、小児がん・うつ病・パーキンソン病などの疾患を治療するためのAPI(医薬品有効成分)を製造している。
「4.European viral vector business(725憶円)」は、ベルギーにおけるノバセップ社のウイルスベクター製造事業であり、バイオテクノロジー企業や大手バイオ医薬品顧客にワクチンと治療法の受託製造サービスを提供している。
「5.Mesa Biotech(非公開-億円)」は、検査プラットフォームであるAccula Systemを提供している。このプラットフォームは、感染症診断のための手頃な価格で、迅速かつ高精度な検査を可能している。昨今伸びているポイントオブケア市場の取り込みを狙っている。この検査には、COVID-19検査以外にもインフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)などの検査も含まれている。
「6.Lengnau biologics manufacturing facility」は、CSLとの提携の一環で、スイス・レングナウに生物学的製剤の製造拠点を開設する。生物学的製剤とは、遺伝子組換え技術や細胞培養技術を用いて製造された薬剤である。
「7.PPD(1兆7,400億円)」は、製薬業界およびバイオテクノロジー業界において、臨床試験を受託する大手である。この買収の効果としてクロージング後 3 年目までに約 125億円のシナジーを実現するアナウンスされている。これは、約75億円のコスト削減と、約50億円の営業利益から生まれるとされている。営業利益率20%で考えると売上の加算は250億円程度と想定する。
「8.PeproTech Inc.(1,850億円)」は、組換えタンパク質の開発・製造を行う。組換えタンパク質は、細胞および遺伝子療法の開発および製造などに使用され、サーモ・フィッシャーの細胞培養培地製品を補完する。
もっと、詳細を見たい方は、会社ホームページ(US)に、会社がリリースしている情報があります(Investor /Financials/Recent Acquisitions)。
買収後の戦略(筆者の考察含む)
さて、上記のM&Aで何か起こったのかというと、サーモ・フィッシャーは、製薬企業が行っている新薬の開発以外は、ほとんど全てができるようになったということである。つまり、サーモ・フィッシャーは、医薬品の安全性・有効性・効果の評価、臨床試験運営の管理、医薬品の開発と製造にわたる包括的なサービスを実施することができるようになった。これにより、製薬企業は新薬の開発のみに資源を集中することができるため、開発後の工程をサーモ・フィッシャーに委託するケースが多くなると想定される。大手の製薬企業であれば、自分のラボで全て完結することも可能であるが、中堅以下の製薬企業であれば、サーモ・フィッシャーへ委託することのメリットが大きいと思われる。
一つ面白いデータがある。セグメント売上を見ると、「Eliminations(相殺)」という項目が入っている。これは、セグメント同士の内部売上のため、全体の売上を考える際に差し引くことを意味している。この相殺の比率が、2017年に3%だったものが、2022年には6.2%まで上昇している。内部で循環させることで、シナジー効果が出ているということを意味している。PPDの治験サービスもこの循環に組み入れられるため、この比率は上昇していくと想定している。
サーモ・フィッシャーは機器のみならず、周辺の資材も提供し、さらに治験サービスまで提供するに至った。これに、検査プラットフォームの「Accula System(現状は、医師と薬局の連携)」が有機的に結合すると、検査~治験までのプロセスで他の会社が入り込む余地はないように思われる。
(これは、勝手な想像である)アニュアルレポートにもシェアが7-9%拡大するとされているが、これ以上競合を買収することは、FTC(連邦取引委員会)から制限がかかりそうである。そのため、自社で一気通貫でサービスを提供することで顧客を囲いこみ、他社を駆逐していくのではないかと考える。
次のページでは、盤石と見えるサーモ・フィッシャーのここだけは注意したい点2つと、株価の推移について検討したいと思います。
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