スマート農業とドローン
Deereの事業「Production & precision ag」の名称に入っているように、農業にも「精密」が求められる時代となっている。機械にGPSが取り付けられており、畑の走行をGPSで誘導している。また、作業時間を短縮するために、走行/作業スピードを上げたり、天候などの情報も農家に提供されている。さらに、どの深さに種を植えればより作付量が増えるかなどのデータも農家に提供されている。この畑のデータは相互通信されており、ビックデータ解析され毎年ブラッシュアップされて農家に提供されている。
Deereは2022年に8Rトラクターシリーズを投入した。1台5,000万円以上する機械は、6組のステレオカメラを搭載し、360度の障害物検出と距離が測定可能となっている。このトラクターの凄いところは、完全自律型で、人間は農機を畑に運び、自律運転システムを立ち上げれるだけで、離れたところから、モバイル端末で操作(ライブビデオ/画像/データを提供して、速度や深さを調節できる)が可能となる。
また、従来の農業では、人間が畑を見回って水分不足や害虫がいないかを観察していた。現在では、これをドローンを使ってデータを蓄積して、畑のデータを確認するという方法に代わってきている。
人間は、涼しい部屋で農機やドローンをゲーム感覚で操作し、収穫するというスマート農業への変革をDeereが助けている。農家は儲かるが、休みもなく、泥だらけになりながらやる仕事から、稼げてスマートな仕事に変化している。こんな農業ならやってみたい方も多いのではないか。
なお、Deereのドローン技術を支えているのが、Volocopter社である。DeereとVolocopterはジョイントベンチャーを立ち上げ、農業分野でのドローンの活用を促進させている。小型ドローンが農業分野で在庫管理やマッピングに活用されていたが、大型ドローンを導入して、ヘリコプターの代用品として、作物保護剤の散布や種まきにも活用し始めている。
自動運転技術では、クボタが先行している。Agriroboシリーズが有名であるが、エヌビディアと組んで完全自動運転(農機の輸送も完全自動化)を目指している。クボタの直近の動きとして、2023年に欧州での電動トラクターを販売・リースする予定と発表した。これは脱炭素化の流れに即した動きであるが、クボタの世界販路の開拓は苦戦しているように見えるため、今後の展開が楽しみだ。
なお、クボタの販売先の32%は日本となっており、農業が盛んな北米34%や南米(数値なし)地域に上手く入り込めていないように見える。日本国内市場も大事だが、農機が稼働する地域を重点的に開拓すると面白い展開が見えてくるだろう。
世界の農業とDeereの成長可能性
アメリカ以外の地域の農業の作付面積が増加してきている。特に南米のブラジルやアルゼンチンでコーンや大豆の作付面積が増えている。大型農機の①生産/精密農業事業(Production & precision ag)事業部門では、2022/2Qでは21.4%が南米向けの売上であり、今後はさらに売上の増加が見込まれる。
上の図の通りDeereの売上の6割は北米向けであるものの、世界展開しているDeereとしては世界の作付面積が増加すれば、Deereの売上も増加することが見込まれる。2015年以降の売上推移を見ると、徐々に北米以外の地域の売上も増加してきている。なお、世界人口は80億人程度であるが、100億人までは増加することが見込まれている(他のデータは予測が誤ることも多いが、人口動態はほとんど予測通りに推移する)。そのため、農業分野も緩やかではあるが、成長が見込まれる。また、上記のスマート農業の推進により、機能性が高まり、農機が高単価になっている。
農業セクターの拡大に伴い農機の販売量と価格が上昇していくのであれば、Deereの売上は成長することが見込まれる。営業利益率も13%以上を維持し、営業キャッシュ・フローも過去10年間プラスである(最低が2017年の2,434億円)。このため、IT大手のような派手な成長は見込めないが、着実に成長することが見込まれるため、ディフェンシブ銘柄の一つとして保有しておきたいところである。
なお、2021年のウクライナの小麦の作付面積は世界の3%であるが、輸出量でみると9.5%となっており、ロシア、EU、アメリカ、オーストラリアに続いて5番目に多い輸出量となっている。9.5%の輸出ができないとなると影響は大きいが、小麦の商品価格は一時の混乱からは落ち着いている。
おわりに
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